薫の下流日記

日記、近況、習作、その他ゴミ置き場

秘密の芋虫(1)

わたしは芋虫だった。家に住む芋虫である。
身体はミドリである。名前はまだない。

わたしはどんな場所に現れるか。

たとえば夜。都会の片隅で、きれいなおねえさんが、パソコンのキーボードを打っている。

すると、何か気配を感じる。おねえさんが見ると、信じられないことに、ミドリイロしたわたしが、モゾモゾと机の上を這っているのだった。

キャーと悲鳴をあげるおねえさん。殺虫剤などを探そうとするが、芋虫なのに、わたしはとてつもなくすばしっこい。目にもとまらぬ速さで、しゅっ、と物陰に隠れてしまう。

おねえさんは、わたしが一瞬の内に消えてしまったので、目の錯覚かしらと思う。そういえば、最近仕事のし過ぎだからなどと、自分を納得させているとき、テレビの上から、黒目がちの目で、わたしはおねえさんを見つめているのだ。

あるいは夏。仕事から疲れて帰ったオヤジが、枝豆をつまみに、発泡酒を飲んでいる。

テレビに夢中になったまま、枝豆をつまむと、枝豆がもぞもぞと動く。オヤジが見ると、自分の指が、わたし、ミドリの芋虫をつまんでいるのだ。

わたしに、糸のようなものを顔に吹きかけられるオヤジ。うわぁわぁわぁわ、と顔をそむけた瞬間に、わたしはもう目の前から消えている。決してわたしはつかまらないのだ。

キョロキョロとあたりを見回すオヤジ。しばらくして、飲みすぎちゃったかな、とオヤジはつぶやく。その一部始終を、天井に張り付いたわたしが黒目がちの目で見つめているのだ。

わたしはそんな生き物である。わたしは虫ではなく、物の怪であるのかもしれないのだが、くわしいことはわたし自身にもわからないのだ。

 

2007.03.07 Wednesday