薫の下流日記

日記、近況、習作、その他ゴミ置き場

何もしてない

秋葉原父親と待ち合わせをした。
書泉ブックタワーの下にいるとのことで、日が落ちて夜になりはじめてるなか、そうだと思われるビルに近づいていくと、わたしを二、三十歳年を取らせたような老人が、ビルの入口あたりの柱の台座に腰をかけているのが見えた。間違いなくわたしの父親だった。

この近くであった、競馬のセミナー(おそらくアフィリエイトセミナーなどと同じ類の、金を無駄に失う類のセミナー)があったので、それに参加して、その後ここに来たのだという。最近競馬をやっているのだが、上手く儲けられないという。わたしが目の前に来るまで携帯で話をしていたようだが、またどこかの詐欺師からの電話だろうか。

父親は円天で退職金を500万溶かしたので、そういう人間の電話番号は日本中の詐欺師が共有しているらしく、詐欺師からのホットラインか掛かってくる。携帯で話しているのを横にいて聞いたことがあるが、声を聞いただけで、いわゆる輩と言われるタイプの、ろくでもない人間だとわかるのは、なぜなのだろう。何百、何千という名簿を見てかけているのか、一見礼儀正しいが、感情のこもっていない声で、早口で話しかけてくる。

ふたりでどこか食事ができる適当なところはないか探し、あるビルの上にある居酒屋に行くことにした。一階の壁に掲げられていた内装の写真が良さそうなので決めたのだが、エレベーターの扉が開いた瞬間、自分たちが場違いなのがわかった。仕事帰りのそこそこ高そうなスーツを着た男と、なんかいけ好かない感じの女が、そこかしこで白ワインとか飲みながら、刺身をつついている、そんな感じの店だった。

無印とかユニクロとかを着たわたしと、おそらくイオンとかで買ったような服を着ている父親みたいなのは、わたしたちだけだった。回れ右するわけにもいかなかったが、カウンターの隅の物陰みたいな席に通された。小鉢に入っているポテトサラダが二千円近くもした。それに刺身の盛り合わせと、鳥の軟骨の唐揚げと生ビールを頼んだが、仕切りと店員が、日本酒とかワインを頼めみたいな感じで勧めてくる。金の心配をしているのか父親も言葉少なで、量が少なく全然食べた感じがしないが、早々に出ることにした。

食べ足りないので聞いたことがあるカレーチェーンに入った。秋葉原には何店舗かあるらしい。混んでいて、粗末なスーツとコートを着た、女に碌に見向きもされず、生涯独身だろう日本人サラリーマンたちがみなスマホをみながら、流れ作業的に送られて来たカレーをかっこんでて、カウンターにいる店員たちはみな外国人で、みなおそろいのTシャツを着ていた。

秋葉原の路面に面した店の一階には、マクドナルドや立ち食い蕎麦屋やラーメン屋、外国人がやっているシシカバブを切り売りしている店がひしめいている。あてもなく父親と歩く。


歩くごとに居酒屋決まりましたか、いい子がいますよ、キャバクラどうですか、チンコ女にしゃぶらせませんか(意訳)、と関わり合いになりたくない雰囲気を漂わせたやつらが声をかけてきて、足早に行きかってるスーツ姿の人に幸せそうな感じの人は見られない。ネオンだけが、キチガイのように点っている。ところどころで見かける、オラついた人と、オタクの人だけは元気そうだ。グラビアアイドルをやってそこそこいいところまで行ったが、一回十万でからだを売っているのがバレて、AV女優になった子が、メイドの恰好をして、微笑んでいる、等身大の広告写真を街角で見た。

わたしは原稿の持ち込みが出来そうになったことも、その後病気になって書けなくなったことも、父親にはなにも言わなかった。言うと、神様のお考えに逆らっているからだ、神の言うとおりにしないからだ、とまた言うだろう。
父親はどこで人が次々轢かれ刺された場所なんだと言う。そこに連れていってくれ案内しろと言う。
適当にここらあたりじゃないかな、と答えた。
地下鉄の改札まで父親を送ったが、父親の後姿は小さく感じた。

父親はいつまで生きているだろうと思った。

 

2016.11.19 Saturday

 

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