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薫の下流日記

日記、近況、習作、その他ゴミ置き場

からっぽの町

普通にそこそこ社会生活を送っている。不可もなく、その場の人間関係を送っている。
それなのにふと、ときに魔がさすように、こんなことしてなんになる、と思ってしまう自分がいる。 働いているなかで、職場の人と協力し、小さなことだったとしても仕事で成果を出し、飲みに行ったり、同じ仕事をするものとして信頼し合ったり、時には笑い合ったりしていたとしても、どこかで満たされなさを感じている自分がいる。こんな生活をつづけて行ってなんになる、と思ってしまう自分がいる。

フリーター薫として死んで、わたしは今の仕事に就いた。
フリーター薫としてのわたしの過去などないことになって、どこか語ってはいけないことになった。
ここの人間として生きていくなら、昔のことは忘れなければならなかった。
勤め人としての義務を果たさなければならないのだ。
何でそれぐらいしか稼げないんだ、もっと稼げ、周りの人に迷惑を掛けるな。
フリーター薫のことを思い出し、話そうとすると、すぐさまその話をさえぎられた。
そんなことは聞きたくもない、お前は何の能力もない。たいしたことのない過去にすがって、お前はみっともない。そもそも能力があれば、成功しているはずだ。お前の我がままで、身内を損なうこともなかったはずだ、と言われるのだった。

ブログを更新しても、もう誰も読みはしなかった。本になってたから、少しは読まれただけだった。
わたしより読まれている人が、いくらでもいた。読まれることが、能力のあることだ。わたしは誰にも読まれない。
テレビで芥川賞直木賞のニュースを見ていると、不愉快になるといってリモコンを取られ、テレビを切られた。そんな顔をするな、と言われた。

なんでわたしは、身内や職場の人にこんな本を書いてたんですよ、と素直に言えない本を出してしまったのだろう。自分の過去の行いを素直に周囲に打ち明け、これがわたしですといえる人が羨ましい。一度打ち明け、ブログを教え本を渡したら、避けられるようになった。
やはりここの人には、言ってはいけないようだった。わたしの言い方打ち明け方も、ずいぶんと気持ち悪いものだった。言っている最中から、もうその自覚があった。でもどうにもならなかった。気持ち悪いと思っても、それを止めることができなかった。自分はこんな気持ち悪いやつなのだと思った。

ここでやっていくためには、フリーター薫のことを忘れ、自分を隠さなければならない。
仮の自分を立て、一歩引き、適切な距離をはかりながら、誰とでも仲良くやれるようにしていく。
与えられた仕事と、役割をこなしている。円滑に、順調に、物事が回るように働いている。上手くやればやるほど、自分を偽っているような気がするのだった。なにか空白が広がっていくような気がするのだ。

このまえ職場の面接に立ち会った。新しい人を採用するというのだ。
自分はこんな経験をして、こんなスキルがあって、こんな職歴、活動をしてと、自分をアピールしていた。それ用にいくらか演じているとはしても、ここの職場と合っているようだった。この人の経験やスキルが、世の中に仕事として存在しているようだ。自分を偽らなくとも、世の中に自分のいる場所を、広げていける人なのだ。からっぽの町に住んでいるように思うことはあるだろうか。名前を消され、特徴を消され、知らない町に住んでいるような気がすることは。コンクリートの巨大な構造物が建ち並ぶ、そっくりにできた巨大なジオラマの町に暮らしているような気がすることは。今日もその中を電車に乗って職場に向かう。

僕はうつ病だったんですよ、と言ったらどうなるだろう。いまは手を切っているけど薬も飲んでて、とても薬中だったんですよ、と職場で言ったらどうなるだろう。職場の仲間としては、わたしは死ぬだろうか。何の差別も区別も受けないが、彼らの心の中で、どこか別の枠にわたしを隔離するだろうか。
わたしは仮のわたしを立て、今日も仕事が、人間関係が円滑に進むように行動する。ただそれだけの為に行動する。それを維持するために毎日を過ごす。

まるで何かのスパイみたいだ。戦争から帰ってきて、その後平和な世の中に暮らした人は、こんな感じだったのだろうか。

そんなことを考えているのはつまらない人間だ。いろいろこなすことが降ってきて、そんなことをいちいち考えている暇はない。なんの躓きもせぬように、小、中、高、大、と持ち上がっていって、そのまま新卒で会社に入り、定年までずっと職場の人間関係があり、結婚とかも、収入があるとかの、条件がいいとか都合を考えねばならず、家だ、仕事だ、家族だ、と毎日を過ごしていくのが人間なのだ、という声も聞こえてくるようだった。なにがからっぽだ、と言われてしまいそうだった。

素敵な女性を見かける。
おっぱいを見せてください、と頼んだら、見せてくれるだろうか。やっぱり気持ち悪い、と言われるだろうか。銃で撃たれ、死にそうになっていたら、見せてくれるだろうか。銃で撃たれてなくとも、わたしはいまそんな感じなのだ。

 

2015.03.14 Saturday

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