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薫の下流日記

日記、近況、習作、その他ゴミ置き場

肛門を見てもらいに行った。

朝、お尻の穴から血が出始めた。

拭いても拭いても出てきて、血が止まらなかった。

出勤時間が迫っていて、これからいきなり電話をしても仕事を休ませてもらえそうにはなかった。

気が動転して、セブンイレブンに行ってタンポンかナプキンを買ってこようと思ったが、使い方かわからない。タンポンかナプキンの使い方を教えてくれる友だちがいない。母親にいきなり電話して、説明している時間はないから今すぐタンポンの使い方を教えてくれ、というのは躊躇われた。

とにかく買ってきて、ぶっつけ本番で入れるかはめるかして、と思ったが、中年の男がお尻の穴にタンポンを入れたまま、素知らぬ顔をして働けるのか自信がなかった。もし取れなくなったら、どう弁解していいのかわからない。ナプキンなら敷居が低いのかもしれないが、しきりに漏れないことを宣伝してるということは、はじめて使った初心者は漏らしてしまうかもしれない。それに取り換えるときどこに捨てたらいいのだろう、男子便所にはそういう箱がない。捨てにこっそり女子便所に入って見つかったら、どう弁解していいのかわからない。

悩んだすえ、こまめに拭くことにして、職場に行ったが、もう行ったそばから血がどんどん出てきて、働きながらこまめに拭くだけではもう間に合いそうにはなかった。

体調不良で今日は休ませてもらえないかと、わたしは上司に相談することにした。

「あの、今日は体調が悪いので休ませてもらえないでしょうか」

「え、体調?」

「はい、体調が悪くて」

「え、体調が悪いんですか?」

「はい、こう見えて血が出て」

「え?どこが、どこから」

「お尻の穴から血が出て」

「え?」

「止まらなくて・・・すみません」

上司は女性で、股の間から血が出ることには理解があったのか、突然だが休んで病院に行くのを許してくれた。

 

人生ではじめて肛門を見て貰いに行った。会社を休んで行った。先生は巨人の小笠原道大(来季から中日に移籍)に似ていた。ここで診察している場合じゃないでしょ!と思わず声を上げそうな程似ていた。わたしが巨人ファンで女子ならとんだご褒美だが、わたしは広島ファンでおやじなのだった。

病院に行く前は痔ろうかもしれないと心配し、物書きたるもの漱石先生と同じ痔ろうになるのは宿命かもしれない、これぞリアル明暗の冒頭、なんて思っていたが、やっぱりただの痔でよかった。時計で言うと十一時の方向にあるらしい(道大談)。訊いてもないのに教えてくれた。

検査のため、はじめてお尻の穴に他人のからだが入ってきた。正直怖かった。落ち着いてください、と言われた。声もあげそうになった。指を入れられるだけでこんな思いをするなんて、身を任せて、他人が来るという感じが怖い。女性は毎回こんな感じなのだろうか、と思った。この感じが、何か別のものに変わるのだろうか。自分なら毎回泣き叫んだりしそうだった。これからは全員経験がありそうな女性には、何歳年下でもさん付けで呼ぼうと思った。

手術はなしで薬をつけることになったが、浣腸型の軟膏を薬局で90本も渡され、ビニール袋ぱんぱんに入ってるのを手渡しされ、何かの冗談ですかこれ、と薬剤師のお姉さんに訊いたら笑うし。90本ってなんかの売人みたいじゃないですか、もう卸業者ですよ、あの小分けに貰えないんですか、って訊いたらまた笑われた。

浣腸型の軟膏でパンパンに膨らんだビニール袋を提げて街中を歩くのも恥ずかしく、鞄に押し込んだが、鞄も浣腸の軟膏でパンパンに膨らんでいる。

帰り道に、車道に飛び出したよい子をかばって車に轢かれ死んで、

「きれいな顔してるだろ、ウソみたいだろ、死んでるんだぜ、それで」

と、開いた鞄から浣腸があふれ出した状態で言われ、いい人なのか変態なのかどうにも判断に困るまま顔に白い布がかぶさってる、ということには残念ながらならなかった。

 

2013.12.09 Monday