薫の下流日記

日記、近況、習作、その他ゴミ置き場

おっぱいと男(下)

男が部屋で寝ているあいだに、かちゃり、と扉を開け、おっぱいはそろそろと入ってきて、男の腕を取り、勝手に婚姻届に名前を書かせていたのでした。

 

おっぱいは婚姻届をたたんで谷間に戻しました。

そして早足で入り口に向かいました。

男があっけにとられていると、おっぱいは役所の中に入っていってしまいました。

 

男とおっぱいは夫婦になってしまったのです。

 

男はその場から逃げ出してしまいました。

家に戻って、男がベットに横になっていると、玄関のインターホンが鳴りました。

 

そのまま黙っていると、またしばらくして、玄関のインターホンが鳴りました。

男が黙っていると、どんどん、と玄関の扉に何かがぶつかる音がしました。

男は扉を見ました。

また、どんどん、と扉に何かがぶつかる音がします。

 

おっぱいが来たのだろうか。

男がじっと黙っていると、扉の向こうにいる誰かも、物音をたてなくなりました。

でも、扉の向こうにいる気配がします。

長い間、男は黙って扉を見つめました。

やがて、誰かのいる気配が、扉の向こうから消えました。

 

男は起き上がって扉までいき、覗き穴から扉の向こうを見ました。

誰もいないアパートの廊下が、覗き穴の歪んだ視界から見えました。

男はなぜか、とてもさびしい気持ちになりました。

 

男はそっと、扉を開けて外を見てみました。

すると、廊下のはしの階段の手前に、後姿のおっぱいがいて、こちらを振り返りました。階段を下りて、帰るつもりだったようです。

しまった、と男は思いましたが、おっぱいはなにか声をかけたくなるような、とてもさびしそうな姿に見えたのでした。

 

扉を開けた男を見て、おっぱいが嬉しそうにこちらに駆けよって来ました。

扉を閉めなければならない。

男はそう思いましたが、こちらに駆けよってくるおっぱいの姿を見て、閉めることができませんでした。

 

おっぱいは男の横をあっという間にすり抜けて、しゅにゅという感触が男の脚に伝わりました。

 

振り返ると、部屋のなかにおっぱいがいます。

おっぱいは幸せそうでした。

そのときから男は、おっぱいと一緒に暮らしているということです。