薫の下流日記

日記、近況、習作、その他ゴミ置き場

バナナのおっさん

家の近くにある、無印良品の店に行き、「バナナの半熟カステラ」と、「バナナバウム」と、「バナナのドライフルーツ」を手に取って、カウンターに持って行った。

会計を済ませようと思い、財布を取り出し中を覗いていると、
「バナナが大好きなんですね」と突然話しかけられた。

顔を上げて見ると、目の前に立つ、先ほど商品を渡した店員さん、まだ高校生と言っていいぐらいの、おそらく19か20ぐらいの若い女の店員さんが、わたしの方を見て笑いかけている。

一瞬何のことかわからなかったが、カウンターの上を見てみると、確かにバナナのお菓子が3品そこに並んでいる。言われるまでは気づかなかったが、これはかなりのバナナ好き、という感じで、そう言われると何だかちょっと恥ずかしくなってきて、これじゃあまるでゴリラかチンパンジーが買い物にでも来たみたいじゃないか、と思ったら、何だかまたさらに恥ずかしくなってしまった。

 

若い女の店員さんは、ニコニコと微笑んでいる。
「バナナが大好きなんですね」と、いきなり話しかけられるとは思いもしなかったので、何と返していいかもわからず(ええ、一日中バナナのことをずっと考えていたんです、バナナ食いてぇとずっと思ってたんです今日、と言うわけにもいかず)、ええぅ、ああ、そうですね、どうも、みたいな感じで言い、逃げるように会計を済ませて、わたしは無印良品の店から出てきた。

バナナのお菓子3点が入った、MUJIと書かれた白い袋を提げて帰りながら、何であんなこと言って来たんだろう、とわたしは思った。

わたしが西島秀俊のようないい男なら、強引な方法でもいいから話すきっかけを作って仲良くなろうとするのもわかるが、わたしは残念ながら西島秀俊ではない。

本来よっぽどなじみの常連でもなければ、客と店員の間ではあんな話しかけ方はしないし、若い世代ほどそういうコミュニケーションを嫌うのではないだろうか。
けっこうかわいい子だったが、まだ若いから、適切な距離感とコミュニケーションのとり方がわからなかったのかな、たぶん彼女なりに接客サービスをしたつもりだったのだ、と思うことにして、わたしは家に帰ることにした。


家に帰る途中、おそらく1パーセントもその可能性はないが、バナナ好きのおじさん素敵、バナナ好きのおじさんとわたし仲良くなりたい、と思って、勇気を振り絞って「バナナが大好きなんですね」と話しかけたのに、逃げられてしまうなんて、わたしこの気持ちどうしたらいいんだろう、とあの若い店員さんが思っているところを妄想して、ひとり楽しんでいたのだが、ちょっとまてよ、とわたしは思った。


もうあの子は、わたしのことをバナナのお菓子を三つ買ったおっさん、「バナナのおっさん」と認識しているわけで、そうするとわたしがあの店に行くと、あっ、「バナナのおっさん」がやって来た、と思うわけで、それはちょっとあれだなぁ、という気がしてきた。


わたしが店に来たのにバナナを買わなかったら、あっ、今日はバナナを買わない、と内心思うだろうし、バナナを買えば買ったで、やっぱり今日もバナナを買った、やっぱりバナナだ、と思うわけで、これでわたしが西島秀俊なら、なんだかそのバナナ大好き振りにキュンとして、そこでまた恋がはじまりアプローチをされる可能性もあるが、わたしは秀俊ではないので、キュンもなければその先もない。


となると、何だかあの店には行きにくいな、という気がしてきた。

バナナのおっさんではなく、そのうちもう「バナナ」と頭の中で呼ばれるようになり、他の店員にも伝わっていて、わたしが店に来ると、あっ、バナナが来たよバナナが、と無印の店員みんなが内心思うようになり、バナナが今日はくつ下を見ている、「足なり直角 ペルー綿混リブ靴下」を見ている、「右と左のある足なり直角靴下」を手に取った、右と左の区別がある方がいいんだバナナは、と思われたりするようになってしまう。


くつ下ならまだいいが、そんなわたしがチャイとかハーブティとかを買おうとすると、バナナのくせに何おしゃれな女子みたいなものを飲もうとしてんの(ほうじ茶だろ、というか無印で飲み物とか買うキャラじゃないだろお前は)、と思われかねないし、帽子とか、ストールとかを鏡に向かって試着し、これじゃないな、こっちがいいかな、とバナナが悩んで、あっこれがいいかな、などと鏡に向かってきめ顔なんかを作っているのを見かけたら、逆の立場だったらわたしは絶対に吹きだしてしまうような気がする。
それらも全部、西島秀俊だったらドラマのワンシーンにでもなってまた絵になるが、わたしは残念ながら秀俊ではない。もうあの店には何だか行きづらいな、という気がしてきた。


もう下手をしたら、無類のバナナ好きのおっさんがいるなどと、ツイッターなどに呟かれてしまう時代で、なんだか生きづらい時代だな、という気がする。

わたしは世間に顔など割れていない人間だが、西島秀俊なんかだと、無印だろうがコンビニだろうが、何か買っただけで西島秀俊がこんなものを買った、愛用してる、と思われるわけで、非常に疲れていたりするときなど、地味にストレスになったりするのではないか。

 

もし西島秀俊が、獣姦モノや母乳モノのAVとかが大好きでも、無印良品でそんなもは買ったりできないし(おそらく無印良品には売ってはないが)。それが何かのはずみでバレてしまったとすると、作り上げているイメージによっては致命傷になりかねず、女性アイドルなど、生理用品とかを買うときにどうしているのだろうか。目ざといドラックストアーの女店員に、ナプキンじゃなくてタンポン派なんだとか、ライナーを買ったとか見られているのかもしれない。


それとも、わたしが自意識過剰なだけで、もう流出などが当たり前の時代なので、人間なんてまあそんなものだよね、とみんなが流すおおらかな時代になって行くのだろうか。

 

とにかくわたしは何かの寄生虫か病原菌に感染しているのかというくらい、たまに無性にバナナを身体が欲するときがありますし、そこの無印に行けないと不便なので、わたしがバナナを買ったということをあの若い女店員さんには早く忘れて欲しいのだった。

 

2012.07.18 Wednesday

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