薫の下流日記

日記、近況、習作、その他ゴミ置き場

キノコストラップ

住む町の駅前にあるコンビニで、キノコストラップというものを見つけてしまった。コンビニの前にいくつか置いてあるガチャガチャの中に、偶然見つけてしまった。

ガチャガチャの器械の中を横から覗き込んで見ると、中にあるカプセルの量は残り少なくなっている。

 

ガチャガチャの器械を、もう一度正面からよく見てみると、キノコストラップ2(ということは1も)と書いてあり、全8種、と書いてあって、そこにどうみても本物に見えるシイタケや、ベニテングタケや、エノキタケなどが印刷されている。

欲しい、と思ったと同時に、自分を抑えられずガチャガチャをやっていた。硬貨を入れてガチャガチャを回すこの感じはいつ以来だろうと思った。

丸いカプセルが出てきて、開けるとベニテングタケが入っていた。
いったいなんだろう。携帯電話のストラップなのに、道端とかに落ちていたら、誰もがこんなところにきのこが、と思うほど精巧だった。
あまりに精巧なので三回もやってしまった。
不惑などと言われる四十に近い大人なのに、一個、人に見せて話のタネにするのが大人としての相応しい態度なのに、更にもう二回やって、ウスキキヌガサタケとシメジも手に入れてしまった。

特にシメジはありえないくらい本物そっくりで、思わずシメジ、シメジ、と呟きながら、ニタニタしてしまった。コンビニエンスストアーの前で、中年の男が手にシメジを持って立っていて、シメジ、シメジ、と呟きながらニタニタしている。きっとはたで見ていたらとてつもなく気持ち悪かったに違いない。

家に持って帰って、机の上に並べて、ニタニタしながら幸せな気分でじっと見つめていた。


机に並んでいるわたしのきのこたちは、何だか特別なきのこのように思える。携帯ストラップなのに、携帯に付けるのが惜しくなってきた。それに大きさもストラップというにはでかくて、キノコは携帯と同じぐらいの大きさがあるのだ。そんなものを付けて電話をしていたら、へんな人に思われる、わたしにもそれくらいの常識はある。

だから携帯やUSBメモリなどには付けないで、机に並べ、ときどき見て幸せな気分になることに決めた。

しかし、それから一日ほど幸せな気持ちで過ごしたのだが、それが人間の性というものなのか、全8種の残りの5種も、お家に連れ帰って来たくなってしまった。別に今もっている3種に不満はないが、やっぱり残り5種も揃えたい。特に、ガチャガチャの器械にもいちばん大きく印刷されていた「シイタケ」。ありえない程精巧なシイタケが、やっぱり欲しいな、という気持ちに何かスイッチが入って、小学生でもあるまいし、いい大人が、と一旦は思いとどまったのだが、それからことあるごとにシイタケが頭に浮かんできて、わたしは元々筋金入りの偏執狂であり、根っからのストーカーなので、もう何も手に付かなくなったので、 一度は本物のシイタケを買って気を静めようかとも思ったのだがそれもうまくいかず、翌朝にはもうそのコンビニの前にお札を持って立っていたのだった。

カモがネギをしょってやってきたようなものである。コンビニのオヤジとガチャガチャの会社の思う壺である。そんなことは自分でもよくわかっているのである。

のども渇いてないのにお茶を一本だけ買って硬貨にくずし、ガチャガチャをやり始めた。どんどんとカプセルの丸いタマタマが出てきて、他の種類が揃ってきたのだが、なぜか「シイタケ」だけが出てこない。こういうことか、と思いつつ、シイタケがいちばん欲しいのであるから止めようがない。今度はお腹もへっていないのにピザマンを買い、また硬貨に崩してやって、ついにシイタケを手に入れた。シイタケ。どこから見てもシイタケ。じっとシイタケを見つめ続けてしまった。これは、シイタケ以上にシイタケであると思った。

最後に横からガチャガチャの器械を覗いてみると、カプセルは残り二個ぐらいになっていた。

家に帰って全部机の上にひろげると、机の上がきのこだらけになった。シイタケが出るまで粘っていたので、ダブっているきのこもいくつかある。

別にダブっていても構わないが、この幸せな気持ちを誰かと分かち合いたくなり、広島から上京してきたわたしの、関東地方にいるただ一人の友だち、千葉の友だちにダブっているやつをおすそわけすることにした。その友だちには、以前、お尻の穴がかゆいときに、 総武線に乗って見せに行って、見てもらった恩もある。その恩にきのこで報いるのもいいのかもしれない。

さっそく、透明ではない、中は見えないビニール袋にきのこたちを入れて、せっかくだからインパクトがある方がいいので、友人にあげるダブった分だけではなく、わたしの分も含めてきのこを全部入れて、わたしは総武線に飛び乗り、千葉にいる友人のもとに向かうことにした。

しかし、電車に乗り込もうとしたとき、つまずいてしまって、こけそうになりながら車内に入ってきたかたちになって、突然車内に侵入したと同時にいくつものきのこを床にぶちまけるかたちになってしまった。

突然のことなので、車内にいる他の人たちはストラップだとは気づかなかった筈で、突然車内に侵入してきたオヤジが無数のキノコをぶちまけたので、あやうくパ ニックになって、異臭騒ぎならぬキノコ騒ぎを起こしてしまうところで、床に転がる色とりどりのキノコをあわててかき集めて、わたしはそこから目にもとまらぬ速さで逃げたのだった。幸運なことに取り押さえられたりすることもなく、捕まって(どういう罪かはわからないが)、自称作家で、フリーター薫と名乗る、何々容疑者(37)とニュースで報道され、前科ものになることは免れたので、いまこうして日記を書いている。

東東京から千葉方面に掛けて、あやしいキノコ男の噂が出たら、それはわたしのことです。全然気にしなくていいですので。

 

2012.02.05 Sunday

 

 

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