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薫の下流日記

日記、近況、習作、その他ゴミ置き場

鳥の協力者

目が覚めると、天井を見上げていた。
いつもと変わらぬ自分の部屋のようだった。
起き上がろうとすると、からだがいうことをきかなかった。
首以外が動かない。
ベットの上に寝ているからだに、ふとんがかけられているようだが、ふとんをはねのけることができない。
からだを動かそうとすると、わたしはからだに何かが食い込むのを感じた。
わたしはしばらくもがき続けた。
なぜか、ベットにからだを縄のようなもので縛り付けられ、その上に、いつも使っている掛け布団を、ふぁさっと掛けられているようだった。
なぜこんなことを、誰がこんなことを。せめて目で確認したい。
わたしはもがいて掛け布団を、いつも使っている白いカバーをかけた掛け布団を、何とかからだの上からはねのけようとした。
しかし、からだの自由がきかないと、軽いはずの布団も動きはしない。
フウフウ言いながらもがいていると、何かが動く気配がした。窓の方で気配がした。
なんだろう。
とても恐ろしい気がしたが、おそるおそる精一杯首を傾けて、窓の方をわたしは見てみた。
なぜか、窓が開いていて、うわ、何か黒い生き物が、と思ったら、カラスだった。
一羽のカラスがいて、こちらを見ているようだった。
なんで窓が開いていて、その窓の直ぐそばの部屋の中に、カラスが入って来ているのだろう。
と思ったら、ちょんちょんと床を跳ねるようにカラスが近づいてきて、カラスはわたしの顔が見える位置に来て、わたしのことを見ているような感じであった。見ているんだかどうだか、わたしは鳥になったことがないのでわからないが、何だか見ているようだった。わたしが身動きがとれないのを知っているのか、平気で近寄って来ている。
直ぐ近くまで来られると、カラスはデカかった。デカイという感じがした。黒々とデカいくちばしが硬そうで恐ろしかった。こんなデカくて勝手気ままな生き物が身近にいるなんて、とわたしは改めてそのことに気づいたように恐ろしくなったが、カラスはわたしの様子を見ると、またちょん ちょんと床を窓の方に跳ねて行って、開いた窓から飛び立っていった。羽音にびっくりして、わたしはからだがびくんと震えた。
いったいわたしはどうなるのだろう、何とかせねば、とより激しくもがいていると、また羽音がした、開いた窓から黒いカラスがまた入って来た。くちばしにハケをくわえていた。なぜかハケをくわえている。
他にも羽音が聞こえるので驚いて見ると、窓からハトが入って来た。スズメが入って来た。
ハトも少し小さめなハケをくわえているし、スズメは歯ブラシ程の小さなハケをくわえていた。
また音がするので見ると、窓から文鳥と、わたしの知らない種類の鳥が入って来た。どちらもその鳥の大きさに応じたハケをくわえている。どのハケも、何かの液体に浸されているようだった。
なぜわたしの部屋に、わたしとハケをくわえた鳥が五羽も、と思ったとたん、そのハケに浸された液体をカラスがわたしの冷蔵庫に塗りたくり始めた。
わたしはどうすることもできない。
わたしが無印良品で買った冷蔵庫が、カラスに何なのかわからない液体を塗りたくられている。
液体を塗りたくられた場所が、濡れた感じになった後に、何だかテラテラした感じに変わって行っている。やがてにぶく光るような感じになっている。何だか、小学校のころの図工の時間に嗅いだ事があるようなニオイがして、これはニスだ、と気づいた。
ニスを冷蔵庫に塗りたくられている。
ハトはわたしのパソコンにニスを塗り始めているし、スズメは携帯にニスを塗り始めているし、文鳥と何だか種類のわからない鳥は、仲良さげに炊飯器にニスを塗り始めていた。
はっと、わたしは口がきけることを思い出して、ニス、ニス塗るなぁ、と言ったが、鳥がヒトの言葉を解するわけもなく、解っても聞く気などないのか、鳥はニスを塗り続けるのをやめようとはしない。
やがて、ハケについたニスをすべて塗り終わると、鳥は窓から飛び立って行った。
すると、順番を待っていたかのように、また別のハケをくわえた鳥が窓から勝手に部屋に入ってきて、冷蔵庫やパソコンの、まだニスを塗られていない部分に、ニスを塗りたくり始める。
わたしはベットでもがいた。しかしからだが自由にならない。
わたしの持ち物がニス化されている。目の前でニス化されている。
わたしは更に激しくもがいた。すると縄が緩んだのか、腕が少し動くようになった。
すると、鳥たちは直ぐそれを察したのか、直ぐさまニスを塗るのを中断して、窓から逃げるように飛び立っていった。
わたしはひとり残された部屋で、ベットからやっと抜け出しながら、部屋を見渡した。
冷蔵庫やパソコンや炊飯器に、ニスが塗られている。
鳥が、わたしのからだをベットに縛り付けられるわけがないのだ。
これは人間の中に、鳥の協力者がいるのだ。鳥側の人間がいるのだ。
人間でありながら、鳥の側に属している人間が。
しかも、わたしが寝ている間に縛られているということは、ごく身近な人間の中に、鳥側のスパイが。
そう思うと、部屋がこれまでとニスを塗られた以外には違いが無いが、まったく違う場所のように見えて来た。まるで、ここはいったいどこだろうと思った。

 

2009.08.02 Sunday

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