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薫の下流日記

日記、近況、習作、その他ゴミ置き場

花火

松田優作松田優作の動画?)がCMをやっていて、これを着るとわたしも松田優作になれるだろうかと買った、わたしのTHE GUNZE(下着のTシャツ)に、いつのまにか醤油らしきシミがついている。

百回の洗濯後にも消臭効果が続き、型崩れしにくく、黄ばみにくく肌触りなめらか(そういう下着ですと宣伝されている)、だから末永く優作になったつもりで着ようと思ったのに、百回洗濯する前にシミがついてしまった。まだ二回しか洗濯していない。あと九十八回シミをつけたままで着るのは悲しい。だから漂白剤を買いに行くことにした。


近所のスーパー、ハイパーマーケットオリンピックに行くと、棚にはたくさんの種類の漂白剤が並んでいる。いつの間に、泡タイプとかなんとかかが、どれを買っていいのか迷う。しかし結局のところわたしは貧乏なのでいちばん安いやつを買う。世の中にはいろんな種類の商品が溢れているが、貧乏なので選ぶ自由がない。
花王のワイドハイターを持ってレジに並んでいると、前の男性は花火セットを持っていた。
花王には悪いが、ワイドハイターを手に持っているわたしとは大違いである。
ワイドハイターは服を持っていたり着ていたりする人(現代社会に服を着てない人はいなさそうだが)、つまりすべての人が購入することの出来る商品だが、花火セットとなるとそうはいかない。そのようなプレイをすることを前提としている人によって購入される商品である。


プレイという言葉にかけていうなら、ムチやロウソクは、SMプレイに必須のものであるが、叩く方にしろ叩かれる方にしろ、叩かれたり叩いたりする相手がいてはじめて成立するものである。叩きたくても叩く人がいなければ買う意味がないし、叩かれたくても叩いてくれる人がいなければ買う意味がない。なかには、何かモノを叩いて喜んだり、自分で自分を叩いて喜んだりするものがいるかもしれないが、やっぱりそのときには、いまはいない、相手となるべき人間を想像しているのではないだろうか。


前の男性が持っている、でかい花火セットをじっと見ていたら、わたしも花火がやりたくなった。今夜は、花火をやるにはうってつけの夜に思えてきた。
前の男性は、若いおとうさん、という感じである。これから家に帰って花火をやるのか、公園でやるのか。奥さんや子供とやるのか。同じスーパーのレジの前後に並んでいるというのに、前の男性の圧勝のような気がした。


もし突然、テレビカメラがやって来て、なぜハイパーマーケットオリンピックにいらしたのですか、というインタビューが始まったら、かわいそうじゃないだろうか。子供たちとこれから花火をしようと思ってるんです、と前の男性が答えた後に、いや、あの、松田優作、下着にシミが、などと俯いて答えるわたし。走り逃げたくなった。カブトムシとかだったら飛んで逃げるのに。わたしには羽が生えてない。


まだ夏になったばかりだというのに、もう花火だなんて、なんて気が早いんだ、さっそくじゃないか、アユ解禁じゃないんだぞ、と頭の中でケチをつけてみたが、空高くを飛ぶB29に向かって竹槍を突いているような、どうしようもない気持ちになってきた。
やっぱりわたしも花火がしたい。入れて仲間に、と言うわけにもいかない。家族での楽しい花火に、見知らぬオヤジが混ざっていたら。
やはり一人でするしかない。


誰も居ない夜の公園で、一人花火に興じるオヤジ。
見るからに気味が悪いので、警察に通報されるかもしれない。
ごく僅かな街灯の光だけで、闇に染まったジャングルジムや滑り台。
公園の片隅に、花火セットとバケツを持ったオヤジ。
打ち上げ花火に一人喜び、線香花火のちらちらする橙の光を、ひとりじっと見つめるオヤジ。辺りには火薬のニオイ。


前の男性が、振り返ってけいたーと言った。
振り返った方にわたしも振り返ると、台所用品売り場にまだちいさな子供がいて、えっ、なにー、とこちらを見ずに子供の声で答えた。


二歳ぐらいだろうか、あんなちいさな、まだやっと言葉を話し始めたばかりだろう息子と会話を交わしている。そのけいたと花火をするのだ。

けいたはカエルをかたどったこちらからはよくわからない台所製品にこころひかれているようである。なんだろうあの緑のカエルは。
前の男性がまた、けいたーと呼んだ。
けいたはこちらにやってきて、花火セットの会計が済み、ビニール袋に入れられるのをじっと見上げていた。


わたしがワイドハイターの会計を済ませているなか、二人は花火セットが入った袋を提げて歩いて行った。

 

2008.07.28 Monday

 

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