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薫の下流日記

日記、近況、習作、その他ゴミ置き場

神様(1)

朝、わたしは燃えないゴミを集積所に捨てに行き、そのついでにコンビニに寄り、朝食を買って家に戻ってきた。玄関を開けると、何か音がしている。いったいなんだろうと思って耳を澄ませると、カーテンを閉めた窓の向こうのベランダで、物干し竿が激しく揺れてきしむような音がしている。わたしはゆっくりと窓の方に近づきながら、まさか泥棒だろうか、と恐ろしくなったが、覚悟を決めてカーテンを開け、磨りガラスになっている窓を開けた。

なぜかわたしの物干し竿に、カラスが一羽止まっている。なぜかカラスは、くちばしにわたしの洗濯バサミを咥えている。物干し竿に幾つか掛かっていたはずのハンガーと、幾つか留まっていたはずの洗濯バサミが、カラスが咥えているものの他はなぜかどこにも見当たらない。カラスは、なぜか残り一個になってしまった洗濯バサミを咥えたまま、わたしの方を見ている。

我に返って動く素振りを見せたら、カラスは直ぐ隣の家の、屋根の上に跳び移った。二メートルと離れていないが、間は空中なので追ってこれないと知っているのか、カラスはそこから動こうとしない。ベランダと屋根の上で向き合うような状態になった後、カラスはくちばしに咥えたものを見せつけるように、屋根の上を跳ねながら行ったり来たりした。どこか楽しんでいるような気さえする。そしてまたしばらく黙って向かい合った後、カラスは空に飛び去って行った。

洗濯バサミとハンガーが全部無くなってしまった。状況証拠でしかないが、限りなくカラスが疑わしい。一個盗ったのは間違いない。

そういえば最近二羽のカラスが、わたしが洗濯物を干しているのをたびたび見ているような気がし、わたしの方を見ながら何かを話し合ってでもいるような素振りが見えたが、これだったのか、とわたしは呆気にとられた。

一本の棒になった物干し竿が、ベランダに残された。

おそらくその二羽のカラスは、わたしが出かけるのをどこかから見張っていて、ゴミを持って出かけたと同時にやって来、二羽で手分けしてわたしのハンガーと洗濯バサミを持っていったのだ。それだと短い間にわたしの洗濯用具を総て持ち去れたのに合点が行く。そして最後の便に、わたしが出くわしたというわけだ。

ふと、わたしは、同じアパートの両隣を見た。しっかりと物干し竿にハンガーと洗濯バサミがついている。いったいなぜだろう。

なぜわたしの家からだけ盗んでいくのか。なぜ貧乏で引っ越してきたばかりで、なけなしのお金で洗濯用具を購入したわたしから。洗濯用具の形状にも、これと行った違いが見られない。どうしてわたしのなのか、せめて訊けるものならカラスに訊いてみたい気がした。

 

2007.05.07 Monday

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