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薫の下流日記

日記、近況、習作、その他ゴミ置き場

上京日記(61)

上京日記

六月九日

 

何もかも上手くいかない。いつのまにか朝になっている。何だかクサクサするので発泡酒でも飲んでふて寝することにした。

外に出ると、ランドセルを背負った子どもたちが歩いていた。自分はそういうものと何か隔たってしまったような気がする。子どもたちが登校する道を、ヨレヨレの寝巻き姿でコンビニへと向かった。

いつもと変わらぬ店の概観だが、日差しが強い。店に入ると同時に、「いらっしゃいませ」と声をかけられた。

スーパーで買い物しているのを見かけた、あの女の子である。私服姿ではなく、今度は制服姿だった。

叱られるようなことをしたの隠しているような、バツの悪い感じがする。わたしにだってスーパーでお買い物をする権利もあるし、偶然見かけ、誰だったかなあ、と思って後をつけたので、覗き見しようと思ってやったわけではない。

しかし、彼女の方を見ないようにしている自分がいる。それまでのくさくさした気持ちと、きまりの悪い気持ちがない交ぜになって、何だかおかしなテンションになり、一つ一つの動きがぎこちなくなった。商品を見る振りをして、他の客がレジに向かう頃合をみはからいながら、彼女の他にもう一人いる、おばさん店員の方に会計をしてもらうようタイミングを図っていた。

しかし、なぜか彼女の方が、レジ周りの仕事をしながら、わたしの会計をしようと密かに待ち構えているような、いつわたしがレジ前に来るか、見ては無くとも視界の隅に入れて窺っているような素振りが感じられた。自意識過剰に違いないが、おばさんの方に持っていくつもりが、上手くタイミングが合わなかった。お客様こちらへどうぞ、と彼女に呼びかけられてしまった。

彼女の方に、持っていた発泡酒と餃子を持って行き、カウンターに置いた。彼女は、ドジっ子という風な、あまり歳相応には世慣れていないような、かわいいタイプの顔をしている。わたしが置いた商品を見たあと、わたしの顔を見上げるように、少しじっと見た。

「いつもありがとうございます」と言って微笑んで、「餃子温めますかぁ」と言った。

お願いします、とわたしは言っていた。その後、商品をバーコードで読み取ったり、後ろのレンジで餃子を温め始めたり、わたしにお金を貰ってお釣りをレジから取ったりする一連の動きが、何だかわざとゆっくりしているかのようだった。

そして、お釣りをわたしに渡す瞬間、いっしゅん艶のある顔になって、また来てくださいね、と言って、彼女の白い指が、わたしの手に長く触れるような感じで、小銭を渡した。

袋を受け取って店を出ると、日差しがギラギラしていた。

 

2007.06.09 Saturday

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