薫の下流日記

日記、近況、習作、その他ゴミ置き場

上京日記(10)

四月九日

駅前をぶらぶら歩いていると、突然ふくらはぎに何かが強くぶつかったような痛みを感じた直後、何かが強く押しつけられて来て、バランスがくずれて前のめりになり、そのまま体勢を立て直すことが出来ずに倒れてしまった。両手をつき、両膝をついた。多くの人が行き交う往来で、わたしは四つんばいになってしまっ た。
後ろを振り返ると、自転車を支えてふらふらしている女の子が、わたしを見下ろしていた。真っ赤な服を着て、お下げ髪だった。女の子の運転する自転車にわたしは轢かれたらしい。
小学校低学年ぐらいだろうか、とそこまで思って、自分が四つんばいのまま女の子を見上げていることに気づいた。グラビアアイドル界でいうところの女豹のポーズである。
女の子は、目の前のオヤジの姿勢があまりにショッキングだったのか、何も言わずに黙っている。四つんばいのオヤジと顔と顔が向き合って、すまないことをした、とは思っているのだが、うまく言葉が出てこないような、自分がやったことが信じられないような、怖くなってどうしていいかわからなくなっているような、そんな感じであった。
不安そうな目で、女の子が前の方をチラリと見た。わたしもそちらを見ると、四つんばいの低い姿勢だったのではっきりとはわからないが、どうやらお姉ちゃんも自転車に乗っていて、わたしと妹のことには気づかずに、前に進んで行っているようであった。
早くどうにかしないと、お姉ちゃんとはぐれてしまう、わたしは汚れた膝を払いながら、なぜかわたしが、わたしの方が、ごめんね、と謝っていた。
女の子は、親が成長することを見越して買ったのか、女の子にはかなり大きめな自転車をこぎながら、お姉ちゃんの後を追いかけ始めた。真っ赤な服と、真っ黒な髪を結んだお下げ髪が、わたしの目にいつまでも残った。

 

2007.04.09 Monday

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