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薫の下流日記

日記、近況、習作、その他ゴミ置き場

部屋男

広島日記

バイト先のひとに聞いた話。

わたしの勤めるネットカフェにも、数年前に部屋男が現れたという。

部屋男は、気づくといつのまにかフロントの前に立っていて、個室タイプの席を借りたのだそうだ。 ネットカフェというものは、席や個室を貸しているのであって、席や個室を売っているわけではない。だから、部屋男以外の客は、数時間、長くても十数時間もすれば、借りた場所から出て行く。

しかし、部屋男は、十数時間どころか、一日近く経っても部屋から出てはこない。仕方がないので、インターフォンをフロントから鳴らしてみるが、何の反応も無い。

死んでいるのかと思って、様子を覗いにいくと、どうやら生きてはいるらしい。しかし、呼びかけてみても、部屋男からは、何の返事も無い。揉め事はこまる し、こちらとしては、お金をそれだけ多く払って貰えるわけだからと、しばらく様子をみることにすると、それから、一時間、二時間、三時間と経っても、部屋 男が個室から出てくる気配はない。

仕方がないので、部屋の引き戸を開けてみようとすると、部屋男の手が、がっちりと押さえてきて、開けさせまいとする。立てこもられてもこまるので、無理に 開けようとすると、開いた戸の隙間から、ボールペンでシュシュシュと突いてくる。怯んで戸から手を離すと、ピシャリと戸を閉める。何をするのだと、また開 けようとすると、また、がっちりと戸を押さえる。

そして、少しでも隙間が開くと、シュシュシュとボールペンで突いてくる。危険を感じて手を離すと、今度は、戸を閉める瞬間に、ある一人の店員の、名札を部屋男は奪い取った。

外からいくら呼びかけても、やはり部屋男が応じる気配はない。

ひとりの人間が、ただの個室に立てこもり続けるのにも限界がある。いずれ、自ずから出てこざる得なくなるだろう。部屋から出されることに抵抗するだけで、他の客に迷惑や危害を加える様子もない。そのような理由から、またしばらく様子を見ることにしたという。

しかし、部屋男は、それからもずっと個室にこもりつづけ、入室してから丸二日経っても、どのようにしているのかわからないが、一歩も部屋から出てはこない。仕方がないので、警察を呼ぶ事になった。

近くの派出所から、警官が二人来た。しばらく、これまでと同じやりとりを繰り返していたが、相手は警察である。部屋男は強引に個室の外に出された。が、その時、部屋男は巡査に噛み付いたという。

部屋男は、両脇を警官に抱えられ、店から連れ出されていった。

部屋男が立てこもっていた個室に行ってみると、奪われたある店員の名札は、名前のところがボールペンの赤線で、何重にも線がひいてあったという。

わたしに、この話をしてくれたのは、その、名札を奪われた店員である。

その店員によれば、数日後にも、部屋男は現れ、事情をしらないものがまた入れてしまったため、同じことが繰り返されたという。

いまでは、わたしの働いている店に、部屋男は現れない。

 

2007.02.24 Saturday

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