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薫の下流日記

日記、近況、習作、その他ゴミ置き場

箱男

広島日記

女の腹がふくれている。

閉じていた目を開き、女はわたしを見上げ、この子の名前は箱男にするわ、と言った。

なぜ。

箱男だからよ。

なぜ僕に何のことわりもなく箱男なのかい。

あなたにことわる必要などないわ。

なぜ。

あたしの子だから。

僕と君の、子じゃないのか。

あたしのお腹のなかにいて、あたしのお腹のなかで育つの。

でも、僕の子でもあるはずだ。

お腹のなかの子供は、わたしの行くところについてくるわ。別れても、あなたのお腹には移らないわ。

名前は僕が主導でつける。

あなたがどんな名前をつけたところで、かまやしないわ。箱男であることは、動かしようがないんですもの、とふくれた腹を見つめ、微笑した。

普通の名前にしてみせる。

イヤね、男って。だからイヤ。

イズミとかマコトとか、ヒロシとかツバサとか、そんな名前がいい。

そうね。でも、どう名前をつけても、わたしは箱男と呼ぶわ。

力づくでも呼ばせやしないぞ。

暴力を振るうのね、最低だわ、男って。いいわよ、あなたが呼ばせたいように呼んであげるわ。でも、こころの中で箱男と呼ぶわ。

やめろ。

あたしの自由。

箱男なんてかわいそうだ、不幸になる。

じゃあ、ブルルグルラにするわ。

なんだそれは。どういう意味なんだ。

箱男よ。

結局は箱男なんじゃないか、女だったらどうするんだ。

女とか男とか、どうでもいいことだわ。

どうでもいいわけは―

ね、箱男、と女はふくれた腹に手をあてて呼びかけた。

女の子なのに箱男だなんて、いじめられるに決まっている。

女は大きな腹を両手でさすっていて、こちらの言うことをまるで聞いていない。

なにをしているんだ、その手を離せ。

自分の身体をどうしようと、あたしの勝手、と言って、わたしに背を向けた。

しばらくだまっていたが、やがて小さな声で、なにか歌を歌い始めた。

注意して聴いていると、しばらくして、あっと気がついた。

独りで勝手に箱男の歌を作って、勝手な節回しで歌っている。

女の体つきが、目に付いて離れなかった。

 

2007.01.31 Wednesday

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