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薫の下流日記

日記、近況、習作、その他ゴミ置き場

温泉(3)

かけ湯を何度か浴び、浴場を見回した。

大きな湯船に浸かり、目をつぶったままじっと動かないおやじ。口を開き、恍惚の表情を浮かべ、いつまでも打たせ湯に打たれ続けているおやじ。放心したおやじが、白いプラスチィック製のベンチに、だらりと腰掛けている。このおやじも股間をかくしていない。複数の湯があるので、途中ひと休憩するのに、ベンチはいいが、それに座ると、間接的にわたしの股間とおやじの股間がひっつくことになる。何かイヤだ。サウナから跳び出てきたおやじが、野生動物のように水風呂に飛び込んだ。ガラス窓の向こうには、露天風呂もあり、複数のおやじが、おやじのからだを外気にさらして、大自然の景色を眺めている。からだ泡塗れにして、自分を洗っているおやじがいる。

わたしの直ぐ横に、小さな、流れるプールのようなものがあった。説明書きを読むと、歩き湯というもので、流れに逆らって湯の中を歩いていると、健康効果があるらしい。

これはいい、ダイエット効果もあるかもしれない、と思った。

まだ誰も入っていない。いま入れば貸切である。直ぐさまは入り、自分のテリトリーだと遠回しに主張することにした。ぬるいお湯で、入った瞬間流されそうになったが、手すりにつかまっているうちにコツをつかみ、流れに逆らいながら歩けるようになった。周回する仕組みになっていて、流れに逆らいながら周ればいいようだ。

しばらくひとり湯の中を周っていると、おやじがふたり入ってきた。わたしの主張は無視されたようだ。ふたりのおやじも、入った瞬間流されそうになっている。

三人では、歩き湯は狭い。流れもあり、気をつけないとぶつかりそうになる。裸のおやじが三人で、黙りこくって湯の中をぐるぐる周っている。

だんだん、おやじたちのペースが落ちてきた。何度も、裸のおやじにぶつかりそうになる。ついにひとりのおやじが、脱落した。だが、湯から出て行くかと思っ たら、コースの途中で手すりにつかまり、流れに身を任せ、その場にからだを漂わせはじめた。邪魔なことこの上ない。周回コースが障害物コースになってしまった。

もうひとりのおやじの方は、牛歩のようになっている。湯から頭だけだし、なぜか中腰で進み始めた。流れのある透明な湯の中で、おやじのからだがゆらゆら揺れて見える。何度も、後ろからおやじに追突しそうになり、ひやひやした。気を抜くと、直ぐ目の前に、見知らぬおやじの剥き出しの後姿が、迫っている。なんで至近距離で、裸のおやじの背中から尻までのラインを、じっと見つめなければならいのか。もう少し速く歩いてください、と頼むこともためらわれる。見知らぬうえに、お互いに何も着ていない姿で、しかも流れに逆らいながら。そんな空気にはとても耐えられそうにない。

追突しそうになるたび、踏ん張って歩みを遅らせた。素っ裸のおやじに、素っ裸のわたしが後ろから覆い被さった姿勢になるのは、絶対に避けたい。やわらかい虫みたいな姿をしたふたりのおやじが、重なりあっている姿は、地獄絵図である。ぶつかったときの感触を思い浮かべそうになって、震えがきた。

そんな気もしらないで、手すりにつかまったおやじは、相変わらず流れに揺れている。自分のせいでコースの難易度が上がっていることを、気にもとめていない様子である。流れと、前方おやじと、漂うおやじ、気が気ではなくなって、健康効果やダイエット効果どころではないので出ることにした。

その後、サウナに入り、湯に浸かり、からだを洗って出た。相変わらず洋なしのような体型のままだが、体重計に乗ると、二キロ痩せていた。歩き湯のおかげなのだろうか。

 

2007.02.19 Monday

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