薫の下流日記

日記、近況、習作、その他ゴミ置き場

とあるトイレでの出来事

ある日。

デパートの地下、デパ地下のトイレに、私が駆け込み個室し、すぐさまうんこをしようとすると、隣りの個室の扉がいきおいよく閉まる音が聞こえた。

その音に一瞬ビクンと来たが、そんな音を気にしている暇はない、まさに漏れそうである。これまで精一杯、ペンギンのような姿勢になりながら、小走りで、便 所を探し求めて来たのである。失われた便所を求めてである。社会に抑圧されてきた生理現象を、誰が何と言おうと、私はすぐさま発揮せねばならぬのである。

無事に終了し、ほぉおう、と一息つくと、なにか隣りの個室から、へんな音が聞こえてくる。けつ丸出しで、前傾姿勢のまま耳を澄ますと、何かをこすっているかのような音である。けつ丸出しで、他人に疑問を投げかけれる立場ではないが、隣りは何をしてるのだろう。気味が悪い。

すぐさま尻を拭くべきか、それとも拭かざるべきか、と迷っていると、隣りのこする音はいよいよ激しくなってくるし、へんな吐息や、へんな喘ぎ声まで聞こえて来る。オヤジのものである。

便所というぐらいであるから、私の思い違いでなければ、ここは用を足すところの筈であるが、いったい何をしているのか、個室は他にも空いていたのに、なぜ、わざわざ隣りに入ってきたのか、無防備な姿のせいもあるが、不安である。

やがて、悩んでいるうちに隣りは静かになった。だまってじっとしていると、扉が開いて、立ち去る足音が聞こえた。少し安心し、私は尻を拭いた。念の為に流し終わった後も、数分とどまってから個室を出て、私は手洗い台に向かった。

手を洗い始めて気づいたが、便所の隅に年配の男がいた。わたしは手洗い台に備え付けの鏡を見つめて、目を合わせないようにしたが、男がこちらをじっと見ているような気がした。

いい男さんじゃねぇ。男はつぶやくようにも、わたしに言うようにも、どちらにも取れるような言い方をした。色が白いわ、と言った。どうも、と鏡を見たまま、わたしはなぜか言っていた。

すぐさま出て行こうとすると、男は、タオルを貸してあげよう、と言った。タオルがあるので拭きなさい、と言い直した。いつのまにか提案が命令に変わっている。そのタオルでいったい何を拭いたのだ。私は年配の男を無視して風のようにその場を立ち去った。

 

2007.01.08 Monday